magattacaのブログ

日付以外誤報

オープンソースで医薬品探索のコンセプトを勉強しよう!〜TeachOpenCADD〜

TeachOpenCADDをご存知でしょうか?ざっくり言うとCADDの自習用教材です。*1

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TeachOpenCADD

CADD(Coputer-Aided Drug Design、コンピュータ支援医薬品設計)というのは、 その名の通り「医薬品の探索、ドラッグデザインにコンピュータを利用する」ということです。(≒ in silico創薬?)

医薬品探索における計算機利用、シミュレーションの重要性とともにその門戸はどんどんと開かれており、
1. 計算機性能の向上
2. 利用可能な(オープンソース)ソフトウェアが増えた
3. 公開データベース
などがその理由としてよく挙げられています。

それぞれ説明書もあって道具は揃った!よし、あとは実際につかうだけ!・・・とはいかないですよね。
とりわけ私のような初学者にとっては「車あるけどカーナビもスマホも無い。どっち行けばいいの??」状態です。

ツールと実践の間のハードルをクリアするためには、
1. そもそもなぜそのツールが必要とされたのか、背景にあるコンセプトを学ぶこと
2. 実践的な具体例でツールを利用してみること
が必要です。

つまり、あれです。「先達・・・あらまほし・・・」ってやつですね。

で、そんな迷える仁和寺の法師たちのためのプロジェクトがこちらTeachOpenCADD platformです。

TeachOpenCADD?

TeachOpenCADDの目的は「CADDに馴染みのない学生、研究者のために、そのコンセプト実践を学習するための教材を提供する」ことで、
チュートリアル形式で一歩ずつ学習を進められるように設計された、学生による学生のためのプラットフォームとなっています。

開発の主体となっているのはシャリテ(The Charité、ベルリン大学病院)のVolkamer研究室で、 構造ベースの手法による毒性予測やオフターゲット予測を主な研究テーマとされているようです。

TeachOpenCADDの特徴として、

  • 無料で利用可能なソースを使用
  • Interactiveに学習できるJupyter notebook形式 (GitHubに公開)

となっており、「EGFRキナーゼ阻害剤の探索」を具体例にしてリガンドベース、構造データベースのCADDの手法を順に学ぶことができるようになっています。

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TeachOpenCADDで学べること(J Cheminform(2019)11:29 Fig1.より)

オープン(Open)ソースでCADDを教える(Teach)教材、TeachOpenCADDということのようですね。

チュートリアルは自習だけでなく講義で説明しながら使えるようにもなっており、 トークトリアル(talk + tutorial = talktorial)とも呼ばれています。

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実際のチュートリアル(J Cheminform (2019)11:29 Fig2)

以上は私の雰囲気翻訳なので正確な情報はオリジナルを参照してください。

  1. TeachOpenCADD Jupyter Notebooks: Talktorials 1-10.
  2. TeachOpenCADD KNIME workflows
  3. GitHub

EGFRキナーゼ阻害剤

さて、TeachOpenCADDではチュートリアル 10回(GitHubの最新版は11回まで)を通してCADDのコンセプトを学びますが、 一貫して取り上げられている題材「EGFRキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)」というのはどういうものなのでしょうか?

まずは敵を知る必要がある!!*2

Wikipediaによると、EGFR(上皮成長因子受容体、Her1)は細胞膜上の受容体で、膜貫通型糖タンパク質です。細胞内にチロシンキナーゼ活性を有するドメインがあり、細胞外からの刺激を細胞内でリン酸化シグナルとして伝達します。このシグナルは細胞の分化・増殖に関わっており、したがって機能変異により発がん、がんの増殖・浸潤・転移に関与するようになります。*3
EGFR遺伝子の変異は肺がんで多く見られるドライバー変異で、日本人の場合非小細胞肺がん患者で多く変異が見られているそうです。*4

変異による過剰な増殖シグナルをとめることで抗がん作用が期待できるということで、細胞外(抗EGFR抗体)および細胞内(EGFRキナーゼ阻害剤)の2つのアプローチで医薬品の開発、上市されています。

EGFRキナーゼ阻害剤といえばやはり一番最初に思い当たるのはゲフィチニブではないしょうか?薬学においてゲフィチニブは様々な点で取り上げられる医薬品です。

  • 初期の分子標的薬
  • 優先審査により世界に先駆けて日本で承認
  • 副作用(イレッサをめぐる問題)
  • 遺伝子変異と薬効の関係

など様々な文脈で名前を聞いたように思います。*5

すでに第3世代までが承認されているEGFRキナーゼ阻害剤ですが、耐性発現、既存の薬剤で効果のでない変異があるなど依然としてアンメットニーズがあるそうです。*6 また、EGFR陽性の肺がんでは免疫チェックポイント阻害薬の効果が出にくいという報告もあるそうで、 EGFR阻害剤最初の承認から20年近くたった今でもまだまだ研究する余地がありそうです。*7

で、私は何がしたいのか?

Q: ぐだぐだと書いているが結局何がしたいのか?
A: 一人で勉強するのが寂しい

ということでのんびり翻訳して晒していこうと思います。 ライセンスCC BY 4.0だから怒られないはず・・・

ではでは!

~~ (追記 2020/09/28) ~~~

以下のページに翻訳したノートブックを保存しています。よろしければご利用ください。

github.com

*1:文献. TeachOpenCADD Jupyter Notebooks: Talktorials 1-10.

*2:私は医療従事者でも専門家でもないので記述の正確性に問題があることをご承知おきください。

*3:上皮成長因子受容体_Wikipedia

*4:日本内科学会雑誌2014(103)1355

*5:このあたり付け焼き刃の知識で踏み込めないので興味を持たれた方は調べてみてください。

*6:【肺がん】EGFR-TKI 一次治療に相次ぎ新薬…それでも残るアンメットニーズ

*7:名古屋大学プレスリリース