PDBにおけるPD-1/PD-L1結晶構造をもう少しながめてみる
前記事でピックアップしたPDBファイルについてもう少しながめてみようと思います。
久しぶりにPDBにアクセスしたらいろいろな機能が追加されていました。
先ずはPDB id: [5J8O]
こんな化合物がPD-L1に結合しています。化合物のID は [6GZ] です。
(2R)-1-({3-bromo-4-[(2-methyl[1,1'-biphenyl]-3-yl)methoxy]phenyl}methyl)piperidine-2-carboxylic acid
SMILES: Cc1c(COc2ccc(CN3CCCC[C@@H]3C(O)=O)cc2Br)cccc1-c1ccccc1
全体の外観としてはこんな感じ。
真ん中の化合物(Ball & Stick)を挟み込む形でPD-L1が2量体化しています。
PDBの3D view で動かしてみると、βシート構造の面でペタっと化合物が挟まれています。
描画方法をかえてみるとこんな感じ。[PD-L1 : Licorice、Ligand : Sapcefill]
化合物の疎水性部位(灰色)がPD-L1に挟み込まれており、外側に向かって親水性部位が伸びている様子です。
より具体的なアミノ酸残基との相互作用をみてみます。
論文中には疎水性相互作用について色々と記載がありましたが、PDBの[2D Diagram & Interactions] では下図左のようにざっくりと疎水性ポケットと認識されているようです。
明示的に描かれている2つのTyr ですが、3Dでみてみると化合物との相互作用形式は異なっており、一方はπ-πスタッキング ( Tyr56A - BrPh側 )、もう一方は直交するようなT-stacking interactionとなっています(Tyr56B - ビフェニル構造末端側)。
論文中では後者のTyr56B の動きが注目されており、PD-L1のapoと、共結晶で大きくシフトしている様が描かれています。さらに、ビフェニル末端に置換基の入ったより大きなリガンドとの共結晶構造(PDB id: 5NIU 、5NIX)では、Tyr56Bが押しのけられリガンド結合部位が広がっています。論文著者らはbinding pocket が binding tunnel になったと呼んでいます。
さて、リガンド逆末端のカルボキシ基ですがタンパク質との明確な相互作用はみられず溶媒面に露出しています。特許中の化合物もアミドやヒドロキシ基等、様々な置換基をふっており、いくつか強い活性をもつものがありそうでした。
もう一つの親水性部位、アミノ基はどうも重要そうです。なぜならWO2015160641 のクレーム、マーカッシュ構造が下図のようなものだから!(雑)
これだけ見たら保護基みたいですね。酸化とか強酸性条件で外れてしまいそうです。
疎水性のビフェニル部位と比較して親水性部位は不斉点が多く凝った構造が多いという印象ですが、特許の合成スキームをみてみるとアミノ酸のようなビルディングブロックをひたらすら還元的アミノ化でバシバシくっつけています。
手堅い&クリーンな反応に最終工程をもってくるあたり、効率的かつ合成速度重視の探索合成という感じで格好良いですね。
共結晶構造に話を戻し、今度はより大きなリガンドとの共結晶構造を眺めます。
PDB id: [5NIU]
リガンド id: [8YZ]
(2R)-2-[[2-[(3-cyanophenyl)methoxy]-4-[[3-(2,3-dihydro-1,4-benzodioxin-6-yl)-2-methyl-phenyl]methoxy]-5-methyl-phenyl]methylamino]-3-oxidanyl-propanoic acid
SMILES: Cc1cc(CN[C@H](CO)C(O)=O)c(OCc2cccc(c2)C#N)cc1OCc1cccc(c1C)-c1ccc2OCCOc2c1
さきのリガンドとの大きな違いは、ビフェニル構造末端の拡大(dioxaneみたいな構造)と中央のフェニル基に新たにシアノベンジル基が導入されていることです。
共結晶構造では前者が上述のPD-L1 Tyr56 を押しのける役割を、後者があらたな相互作用の獲得に機能しています。
全体的な結合モードは先の共結晶と同じです。
2D の Ligand interactionの図がなかったので3Dを貼ります。
上左図ではリガンドのビフェニル末端側がPD-L1のTyr 56を押しのけている様子を、
上右図ではリガンド左下、シアノベンジル基があらたなπ -π相互作用 ( Tyr123 )を獲得している様子がみえます。
(透けて見えるタンパク質はpocketの opacity という値を変えると表示されました。格好良いかと思いましたが見づらくなった感もあります。)
以上、共結晶構造をみてきましたが、重要な問題が、、、それはPD-L1の2量体と低分子の相互作用形式で、PD-1 と PD-L1 のProtein-protein interaction 阻害とはまた話が違うのではということです。
そこでついでにPD-L1 と PD-1の複合体の構造を眺めたいと思います。
PDB id: [4ZQK] ( chain A : PD-L1、chain B: PD-1 )
先ずは外観です。
色の変え方が分からなかったのでわかりにくくなっていますが、それぞれ複合体の左側にPD-L1 がくるようにしています。
PD-L1二量体とリガンドの共結晶構造ではPD-L1は「両手を指先であわせて三角形を作った」ような見た目でしたが、PD-L1 : PD-1複合体は「掌を合わせて握手した」ようなみためです(上左図)。
ですが、上右図のようにPD-L1 : PD-1 複合体の境界面にはPD-L1 2量体の共結晶でみえたような隙間があります。これはリガンド結合部位として期待できるかもしれません。
これ以上の細かな設定はPDBのviewer では難しそうだったので論文中の構造を引用させていただきます。(文献:Structure 2015(23)2341 よりFigure 2)
図の緑色がPD-L1、青色がPD-1です。PD-L1の黄色でハイライトされたアミノ酸残基をみると、Tyr56やTyr 123があります。また、Fig. 2B 左端にはGln66(緑色)がありますが、こちらは[PDB id : 5J8O] においてBMSリガンドのアミノ基との相互作用が認識されていた残基です。
PD-L1 : PD-1相互作用とPD-L1 2量体 : リガンドの相互作用に機能するアミノ酸残基は共通するものが多く、同じ結合位置をしめているようです。
と、いうわけでBMSリガンドとの共結晶構造はStructure Based Drug Design を行う上で役に立ちそうです。
以上、いつの間にか機能が増えていたPDBで遊んだみたという記事です。
図は主にRCSB PDB の NGL viewer を用いて作成しました*。
私はタンパク質結晶の専門家でもなんでもないので、「これは変だ」というのがあればご指摘いただければ幸いです。
*引用
AS Rose et al. (2018) NGL viewer: web-based molecular graphics for large complexes. Bioinformatics dio:10.1093/bioinformatics/bty419