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ファクトフルネスについてのファクトレスな読書感想文

長距離バスにのってお出かけしなければならない事態におちいったため、道中、話題の書籍「ファクトフルネス」を読みました。(往復6時間、要件30分・・・)

 

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

 

 

Twitterなどで以下のグラフをご覧になった方も多いと思います。世界各国の経済状況・公衆衛生の状況が過去200年以上にわたってどのように推移してきたかを示すものです(横軸に収入、縦軸に平均余命をとり、各国の年次推移が動的なバブルチャートとしてあらわされています*1

 

 

ファクトフルネスは上のグラフを作成・公開しているギャップマインダー財団(Gapminder)の設立者、ハンス・ロリング、オーラ・ロスリング、そしてアンナ・ロスリング・ロランドの3名によって書かれた書籍です。

 

医師・公衆衛生学者として"途上国"における貧困と疫病の研究に長年携わり、その実態と現状を伝える啓蒙活動にも取り組まれたハンス・ロスリング博士(1948 - 2017)の集大成とも言える内容となっています。

 

オーラ・ロスリング氏、アンナ・ロスリング・ロランド氏はハンス・ロスリング博士のご子息夫妻とのことで、博士の培った知識・経験をよりわかりやすく伝えるべく、データ解析と分析、動的なバブルチャートの開発といった明快なプレゼンテーションの作成に携わってこられたとのことです。

 

時にはぶつかり合いながら、異なる視点・アイデアからの意見を戦わせつつ仕事をすすめてきた、というお三方の成果がいかに素晴らしいものかは以下のTEDトーク動画をみていただければ一目瞭然だと思います。

 


How not to be ignorant about the world | Hans and Ola Rosling

 

上のTED  動画冒頭と同じく、本書は読者に対するクイズから始まります。

 

質問1

現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を終了するでしょう?

A. 20%

B. 40%

C. 60% 

 (A ・・・かな?と思った方は私と同類です(答えは書籍をご確認ください))

 

驚くことに、私のような一般人(以下?)は言わずもがな、世界情勢について関心を抱き政策立案に携わるような要人やリンダウ・ノーベル賞受賞者会議に出席する科学者たちに対して同様の質問をなげかけた際にも、その正答率は惨憺たるものだったそうで、ロスリング氏は「これならチンパンジーにランダムに選ばせた方が正答率が高い!!」と、世間一般の現状認識のズレに対して警鐘を鳴らしています。

 

「どうしてそんなズレが生じてしまうのか??」

 

ロリング博士は、社会情勢に関して学校で学んだ知識が「最新の情報にアップデートされていない」からだ、と考え、様々な機関・場所で講演会・啓蒙活動を行い、「現在の世界の実情」についての正しい理解広めることに努めてこられました。

 

「あーなるほど、OK!世界の状況こんな風に変わってたのかー。知らなかったわー。チャート見たしTEDもみたし、だいたい分かったからこれで大丈夫!」と思ったあなた!!! そんなあなたこそ、本書をきちんと読む必要があります。

 

なぜなら本書は、ロリング博士が情報のアップデート・発信に努めてこられたにも関わらず、一向に世間一般の認識に改善が見られない。 それはなぜか??? その背景には我々が物事を把握する際に知らず知らず、現実(ファクト)から離れ、思い込みによって「理解 / 解釈」してしまうという本能の傾向があるからではないか? という問題を投げかけることこそが主題となっているからです。

 

我々が陥ってしまう10個の思い込み、そしてそれを乗り越え「データをもとに世界を正しく見る習慣」を身につけるためにはどうすれば良いのか? ネタバレになってしまうので詳細は書きませんが、時間のない方のために・・・

 

書店で手に取っていただき目次を眺めた後、324-325ページをご覧ください。「最後にひとこと」と題する見開きとなると思います。このページを進める時点で書評としては失格となると思いますが、こちらに事実(データ)に基づいて現実を認識するためのファクトフルネスの10個のポイントがイラストで示されています。 プレゼンテーションのプロフェッショナルでもある、著者3名の技術が遺憾無く発揮されたページでもあると思いますが、こちらをご覧になって一つでもひっかかる言葉があれば、その章だけでもお読みになることをお勧めします。

 

さてさて、本書を褒めるのはこれくらいにして、、、

アフィリエイトではないので上のアマゾンのリンクをクリックしても大丈夫!(・・・何が???))

 

なぜ本書の感想文をこちらで書いてみようかなと思ったかというと、本書の主題が「データを現実の理解に如何に生かすか?」であり、インフォマティクス に関連する話題なのではないかな???と思ったからです。

 

きっかけはファクトネスの「ルール3:直線本能を抑えるには・・・」です。この章では、我々が「あるデータの時系列変化」を追っていると、その変化がそのまま「直線的に継続」して進行すると思い込んでしまいがちである、という問題点が指摘されています。

直線的ではない変化の例として、著者が実際に遭遇した2014年のエボラ出血熱予想感染者数のデータが挙げられています。感染者数が直線的ではなく倍々(指数関数的!)に増加していると気づいたことから事態の深刻さ、一刻も早く対処しなければならないことに気づいたという経験が語られています。この経験に関連づけられて、データの推移はさまざまな変化のパターン(S字カーブ、滑り台型、コブ型…)がありうるので気をつけなければならないといったことが述べられています。

 

この章を読んだ際にこれって久保先生の「データ解析のための統計モデリング入門」で語られていたことにつながるのでは???という感想を抱きました。 

 

 久保先生の本ではデータをうまく説明し予測を可能とするモデルをどう構築するか、モデルを作る上での分野の知識(ドメイン知識、特徴量選別・抽出)の重要性が強調されたように思います(・・・・浅い理解ですみません)。一方、ファクトフルネスでは世界の人口変化の予測、とくにその年齢層の分布の変化予測のモデルが取り上げられていますが、あわせてハンス・ロスリング博士が人口調査のプロ・専門家による予測を如何に重視・信用しているかという点についても語られています。データに基づき、予測・意思決定を行うことの重要性は疑うまでもないことですが、そのデータの持つ意味、解釈にあったって、深い知識・見識をもつ専門家の意見(とそのモデル)に敬意を払うことは、すこしでも科学に関わった身(末端、ドロップアウト組ですが・・・)としては肝に命じておきたいことだという感想を抱きました。

 

その他にも、「世界で起こっていることを理解するため確かなデータが手に入るようになったことが重要だった」といった統計データの正確性の重要性や、「なぜ、先進国では科学に逆行するかのようにワクチン使用・化学物質に対する過剰な嫌悪が生じるのか」といった現在の日本のニュースを見ていると身につまされるような話題も挙げられているのですが、もっとも印象に残ったエピソードをあげさせていただきます。

 

若き日のロスリング博士がモザンピークで医療に携わっていたころ、治療環境・現場スタッフのレベルといった種々の制約の中で、日々は運び込まれる乳幼児・子供の治療に対して、博士は先進国における治療の方針から判断すれば不適切ともとれるような簡易の治療手段をとることを余儀なくされます。ある日訪れた別の地域で働く友人医師(同様に貧困地域の医療に携わる医師ではあるが、ロスリング博士よりも少しマシな地域の担当だった)には、博士のとる治療手段が手抜きのようにみえ、「今、その場、目の前にいる患者に対して最善、最良の医療を施す努力をしないのは医師として失格なのではないか」、という叱責を受けることになります。しかしながらロスリング博士は「自分の使命は、病院に運び込まれる子供を助けることだけではなく、より多数の病院にすらくることもできないような子供も救うことができるような地域全体の医療を改善することだ。そのためには、病院での治療が簡易のものとなったとしても、地域の公衆衛生全体を改善することにより多くの時間を割くべきだ」という苦渋の決断を下すこととなります。

 

ロスリング博士の下した決断は、個々の命を「統計的に処理」し、全体としての最適な状態を目指すためには、「それぞれの命のかけがえのなさ」といったものが、ある種「軽視された」ように見えてしまう、という倫理的な問題を孕んだものとなります。このエピソードを読んだ際に私は学部生の頃にうけた生命倫理の講義における問いを思い出しました。「生政治の哲学」を扱ったこの講義は、私の学生生活の中で最も素晴らしく、現在に至るまで深い影響を受けたものなのですが、そこにおいて出された問いは以下のようなものです。

 

阪神淡路大震災以降トリアージという言葉が医療の現場で注目を浴びた(注:東日本大震災が起こる前でした)。災害時にはその場で治療によって救うことができるかを判断し、救うことができないのと判断したならば直ちに治療を中止し、優先順位をつけて救うことができる患者の治療に時間を割くよう判断を下すのが適切であるとする概念だ。確かに全体で見たときの結果としては適切な判断で最良の結果をもたらすだろう。そうだとして君達は今、目の前にいる患者を救える可能性が低いからといって切り捨てる決断が本当に下せるのか?」

 

といったものでした。この問いを受けた時に自分の論理的な弱さ、論理に基づいて決断をくだすということの難しさに気付かされたのは、非常に忘れがたい思い出です。

 

(学生生活最高の講義であったといいつつ、課題も提出できず単位を落としたクズ学生・・・。最近、先生の訃報を目にし非常にショックを受けました・・・。幾分、悲観的すぎるかとも思いましたが、とても誠実な講義をされる先生でした。)

 

落ちこぼれの思い出話はおいておいて、「ファクトフルネス」は我々が気づかぬまに陥っている思い込みを指摘し、如何に事実(データ)にもとづき判断する習慣を身につけるべきか、その重要性を指摘するだけではなく、一人の優れた医学者・公衆衛生学者が世界でおきている状況を改善すべく奮闘してきたか、生涯をかけた仕事の集大成ともいえるべき内容を、軽妙な語り口で重くなりすぎず誠実に語った良書だと思います。

 

さてさて、本記事の冒頭、「"途上国"」とあえてクォーテーションで囲った記載を行いました。なぜそのようなことをしたのか疑問に思った方、「先進国/ 途上国」という切り分けに違和感を抱かなかった方は是非是非「ファクトフルネス」を手にとっていただければと思います。知らぬ間に前提として受け入れていた世界の見方が如何にアップデートできるか、きっと楽しめると思います。 

 

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注)

ギャップマインダーの統計データは引用自由なものとして公開されています。

 

 

 

 

 

*1: Gapminder Tools

より)