magattacaのブログ

日付以外誤報

non silico、in silico を語る!!

思いつくままに遊んできましたが、このままではin silico創薬がわからないままです。 

一旦in silico創薬(dry)の大事そうな用語を、創薬研究(wet)との関係から整理したいと思います。

 

といってもin silico、創薬、共にモグリなので不正確な記述があると思いますが随時修正していきますのでご指摘いただければ幸いです。

 

まずは探索から臨床、上市にいたる創薬研究の流れと各段階におけるin silicoのトピックについて図を作成しました。作成にあたって参考にした資料は記事末尾にまとめて記載しています。

 

では、早速・・・

 

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Fig. 1 創薬の各段階とin silicoに関連する用語の対応(複数資料を改変して作成)

 

上図は大きく3列に分かれており、

  ・左・・・創薬の流れ

  ・中央・・・in silico 創薬に関連する用語

  ・右・・・Bioinformatics、Cheminformatics、Simulation 各技術の比重

をあらわしています。

 

順を追って見ていきたいと思います。

まずは初心者の味方wikipediaより・・・

in silico(シリコン内で/パソコンを用いて)は 、ウェットの実験 in vivo(生体内で)、in vitro (試験管内で)に対して、計算で結果を予測する手法、だそうです。

( in silico - Wikipedia )

 

in silico 創薬といった場合、「創薬への計算手法の応用」といったところになると思いますが、その手法は大きくインフォマティクスBioinformatics+Cheminformatics)とシミュレーションに分かれるとのことです (引用文献 1 )。

 

では具体的にどのようなトピックが創薬に関係してくるでしょうか?

 

創薬標的の同定

in vitro / in vivo in silico 創薬レイド
・生理学
分子生物学
・遺伝学
・Genome Informatics
・Pathway analysis]
抗腫瘍の創薬標的としてのPD-1/PD-L1

 

まず現代の創薬は対象の疾患に対し、メカニズムを分子レベルにまで還元し、創薬標的となる分子(タンパク質)を同定することから始まります。

病態に近い表現型を示すモデル動物の解析やノックアウトマウスの作成といった手法が使われると思いますが、いくら CRISPAR-Cas9 といったゲノム編集技術の進歩が著しいといえど、闇雲にしらべる訳にはいきません。そこでゲノムインフォマティクスやパスウェイ解析といったバイオインフォマティクスの手法により、調査対象を絞り込むことが原因遺伝子・分子の同定の効率化につながるそうです。

 

今更ですが、山中先生がiPS細胞を見出す際にもバイオインフォマティクスによる遺伝子の絞り込みが不可欠だったそうです・・・知らなかった。

 

②ヒット化合物 / シード化合物の同定

in vitro / in vivo in silico 創薬レイド
・HTS ・Chemical Library Design
・Virtual Screening (VS)
・PD-1/PD-L1 相互作用阻害剤候補化合物の絞り込み
(狭義のin silico創薬?)

 

つぎに①の標的分子に対し、結合し作用する化合物(創薬の出発点となる化合物)を見つけ出します。

wetの実験ではHTS(high-throughput screening) などの手法が使われますが、より良いスクリーニング化合物ライブラリーをデザインするためケモインフォマティクスの手法が使われるそうです。例えば、標的分子にあわせたFocused Libraryの作成や、より多様性の高いライブラリーのデザインによりヒット率を高めることが期待されます。

 

また、スクリーニング自体をin silico で置き換えてしまい化合物を絞り込むのがVirtual Screening(VS)で、in silico創薬という言葉で真っ先にイメージされるのもこちらだと思います。「創薬レイドバトル」もこちらをやれば良いのではないでしょうか?

 

関係ないですが「virtual = 仮想」は誤訳って本当ですか? マトリックス世代としてはショックが大きい・・・

 

③ ヒット化合物からリード化合物、新薬候補化合物同定へ

in vitro / in vivo in silico 創薬レイド
・探索合成
・生物学的評価
・物性評価
・薬物動態
・Structure Based Drug Design(SBDD)
・Ligand Based Drug Design(LBDD)
・Physicochemical Property Prediction
・ADME/Tox Prediction
化合物のプロファイルが良ければ
いきなり臨床導入というミラクルも!?

 

ヒット化合物の構造展開  ー 活性・物性評価スクリーニングにより、医薬品としての条件を満たすよう化合物を仕上げていきますが、ここでも in silicoの技術が役立つそうです。

化合物とタンパク質の相互作用は3次元的なものなので、構造活性相関(Structure Activity Relationship :SAR)を考えるうえで化合物の安定な立体配座の考察が重要となります。化学を齧った身としては、構造式をみれば分かる!と言いたいところですが、計算化学による立体配座・電子状態の解析は創薬に限らず不可欠な手法です。(LBDD : Ligand-Based Drug Design)

 

ChemStation( Chem-Station (ケムステ) | 化学ポータルサイト) でも新規反応開発において、合成実験とDFT計算を実際的に組み合わせた記事が多くなってきたように思います。

 

また、タンパク質との相互作用を考察するうえでドッキングシミュレーションによる結合モード・結合自由エネルギーの予測が助けになります、(SBDD : Structure-Based Drug Design)

 

少しズレますが、製薬企業においては特許として権利を成立させることが必須です。他社の特許や既知化合物とは異なる新規化合物を探索する手法として、既存の活性化合物から新たな骨格をもつ化合物を自動で生成させる研究もなされているそうです。

 

このあたり以前はCADD(Computer-Aided Drug Discovery)と呼ばれていたように思ったのですが、あまりこの言葉は使われなくなってしまったのでしょうか?

 

活性のみ話題にしてきましたが医薬品となる化合物には、適切な物性・安全性といった様々なパラメーターの最適化が求められます(ADME/Tox)。

溶解度・膜透過性・CYPによる代謝等々さまざまなin vitro試験が実施されますが、依然としてin vivoでの効果の予測は難しく動物実験に頼らざるを得ません。in silicoによる予測精度が高まれば、スクリーニング効率の改善・動物愛護の観点からも有用でしょう。

また、安全性に関してはヒト特有の毒性もあり、動物実験でも不十分な場合があります。臨床試験において初めて明らかとなりますが、被験者・製薬企業ともに大きな損害をうけます。例えば下記AMEDの「創薬支援インフォマティクスシステム構築」では体内動態・毒性予測についてのプログラムが実施されています。

創薬支援インフォマティクスシステム構築―平成28年度研究成果報告書― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構

 

臨床試験での副作用(毒性)発現については「TG1412」(英国 2006年)「レンヌ事件」(仏 2016年)を検索すると恐ろしい記事がでてきます・・・

 

 

④CMC / 前臨床試験

in vitro / in vivo in silico 創薬レイド
・プロセスケミストリー
・CMC研究
・ADME/Tox Prediction
・Soft Sensor
研究成果を社会に還元するには?

 

臨床試験に進む化合物が決まると、いかにその化合物を製品と合成するか(プロセスケミストリー / CMC研究)が重要となりますが、体内に直接入るという性質上、医薬品の製造には厳しい基準があります。

さらに、製薬企業においては競合他社の存在(開発競争)、特許権の存続期間という実際的な問題のため、限られたスケジュール内でのスケールアップ、コストを抑えた精密有機合成の実施が求められます。不勉強のため把握していなかったのですが、こうしたプラントでの製造を助ける手段として、測定データから作成した予測モデル・ソフトセンサーの活用も進んでいるようです。

 

こちらはin silico創薬に限らない、もっと広いデータサイエンス的な枠組みでしょうか?

エーザイの驚異のプロセスケミストリー、HALAVEN(eribulin)。これを製造するとは・・・

f:id:magattaca:20181020104742p:plain Eribulin - Wikipedia

 

また、医薬品と毒性の問題を③でとりあげましたが、薬効を示す本体だけではなく、製造時に一定量以上含まれる不純物についても毒性がないことが求められます。最近、国際的な医薬品規制のガイドライン(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use : ICH)において in silico 手法による毒性リスク評価が含まれたそうです(ICH M7)。世界的に動物実験を減らすことが追求されており、代替としてin silicoの活用が積極的に検討されているそうです。

 

臨床試験 / 上市

in vitro / in vivo in silico 創薬レイド
サロゲート(代用)マーカー
・個別化/層別化医療
・NGS
・Biomarker Identification
・Pharmocogenomics
・medical imaging informatics
免疫チェックポイント阻害剤の
薬効が期待できる腫瘍の判別

 

臨床試験では適切に治療効果を判断するためのバイオマーカーが必要となります。適切なバイオマーカーは、動物試験とヒトの臨床試験をつなぎ、薬効の推定・開発の成功率を向上させる上で重要となるそうです。また、臨床試験では統計的な有意差を示さなければなりませんが、薬効の期待できる患者層を適切に選別することが治験デザインにおいて重要となるそうです。

最近では、次世代シークエンサーでコストが低下したゲノム解析情報の活用や画像診断も盛んに研究されており、これらの情報処理に in silico の手法が応用されているそうです。

 

創薬レイドバトル」の題材となっている免疫チェックポイントシグナル阻害剤に関しても、高額な薬価により医療制度が崩壊するのではないかと話題になった際、薬効が期待できる腫瘍とそうでないものを判断する必要があると、患者選別化が議論されていました。腫瘍マーカーやリキッドバイオプシーなど、バイオインフォマティクスで解決されていくことに期待です。

 

以上、ざっと創薬の流れとin silicoトピックをひろってきました。

承認後も市販後調査(post marketing surveillance : PMS)や薬物間相互作用の問題など、in silico による解析技術が効果を発揮する面は多いと思われます。

 

最後に、肝心のin silico 創薬における化合物絞り込み(VS)をさらっと流してしまいましたのでもう少しみておきたいと思います。。

VSは大きく分けてStructure-Based Virtual Screening(SBVS) と Ligand-Based Virtual Screening (LBVS) の2つの手法に分かれるそうです。バーチャルスクリーニング - Wikipedia )

 

① Structure-Based Virtual Screening(SBVS)

 SBVSでは標的タンパク質の構造情報に基づき、結合するリガンドを探索します。

 具体的には標的タンパク質の結合サイトにリガンドをおき、

  ・形状からみたはまり具合の良さを評価する(ドッキングシミュレーション)

  ・タンパク質 - リガンド間相互作用の強さを評価する(スコアリング)

 ことにより、タンパク質とリガンドの親和性を見積もります。

 結合サイトの情報をもとにするため、

  ・既知リガンド情報がなくてもスクリーニングの実施が可能

また、

  ・既知の活性化合物と類似性の低い新規な骨格を発見できる可能性がある

といった長所があります。

 一方で、扱う情報量(原子の数)が多いので計算コストが高いのが短所だそうです。

 

② Ligand-Based Virtual Screening(LBVS)

 

 LBVSでは既知活性化合物の構造にもとづき、化学的類似性をもとにスクリーニングを行います。

長所は

 ・SBVSよりも計算コストが低く

 ・標的タンパク質の構造が未知でも実施可能

なことです。

 一方で、類似性に基づく以上新規な骨格を見つけにくいという短所があるそうです。

 

 また、LBVSの別のアプローチとしてファーマコフォアモデルを利用する手法もあります。ファーマコフォアモデルは複数の活性化合物の情報から、活性に必須な構造を抜き出して作成するモデルで、このモデルとの類似性から化合物探索を行うそうです。

 

それぞれの特徴とPD-1/PD-L1における状況をまとめると以下のようになるでしょうか?

 

  長所 短所 創薬レイド
SBVS ・新規骨格の探索に有効
・タンパク質とリガンドの
 結合エネルギー評価可能
・標的タンパク質の立体構造が必要
・計算コストが高い
・PD-1/PD-L1それぞれの結晶構造あり
・低分子との共結晶構造あり
LBVS ・タンパク質の構造が
 未知でも良い
・計算コストが低い
・既知活性化合物の情報が必要
・新規骨格の探索に不向き
・特許、文献に低分子化合物の情報

 Table.1.  SBVSとLBVSの比較 ( 引用(5) ナミキ商事株式会社のページを改変して作成)

 

とりあえず、リガンドぶつけまくるか、似た者探しをすればいいみたい。 

実際にどうするかはわかりませんが。

  

以上、in silico創薬についてざっとみてみました。

間違いや問題があればご指摘いただければと思います。

具体的な手法など勉強できるサイトがあれば教えていただけると嬉しいです。

 

 

 

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上記の作成にあたってin silico創薬に関する下記資料を参照しました。

1) 理化学研究所生命機能科学研究センター制御分子設計研究チーム チームリーダー 本間 光貴 博士

インフォマティクスとシミュレーションを融合したインシリコスクリーニング」

    学術の動向 (2017) 22, 7_66 ( https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/22/7/22_7_66/_article/-char/ja )

2) 東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻 船津 公人 教授

   CRESTシンポジウム資料

   研究領域「科学的発見・社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出・高度化」

  「医薬品創薬から製造までのビッグデータからの知識創出基盤の確立」

   (船津・小寺研究室HPにて閲覧可能  ホーム - Laboratory of Chemoinformatics )

3) 大日本住友製薬(株) インシリコ創薬ラボ 山崎 一人 博士

    「ビッグデータがもたらす創薬パラダイムシフト」

     学術の動向 (2017) 22, 7_78 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/22/7/22_7_78/_article/-char/ja)

  および

 創薬における数学・AI活用の現状と将来ビジョン」

      九大-理研-福岡市・ISIT 三者連携シンポジウム「数理・AI がとく未来!〜計算科学の展開と期待〜」

  2018年5月15日 講演資料

 (探すと出てきますが正規か不明なのでリンクは貼りません) 

   4) 東京医科歯科大学 田中 博 名誉教授・特任教授 

 「AI創薬の現状と将来」第82回MACメディカル交流会 2018年3月16日 講演資料

  NPO法人 次世代生命医学研究所 HP 講演スライド にて閲覧可能

     ( 講演スライド | NPO法人 次世代生命医学研究所 )

   5)  ナミキ商事株式会社ホームページより 

  創薬支援サービス-in silico Screening | ナミキ商事株式会社

     Virtual Screeningに関して京都大学薬学系研究科・奥野恭史教授の技術を基にした紹介がされています。

 同社は創薬レイドバトルのライブラリも提供しています。

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